「トロッコ」 芥川龍之介

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「愛撫」梶井基次郎

梶井基次郎『愛撫』

初出 「詩・現実」 1930(昭和5)年6月

 

【書き出し】

猫の耳というものはまことに可笑しなものである。薄べったくて、冷たくて、竹の子の皮のように、表には絨毛が生えていて、裏はピカピカしている。硬いような、柔らかいような、なんともいえない一種特別の・・・


「津波と人間」寺田寅彦

寺田寅彦『津波と人間』

初出 「鉄塔」1933(昭和8)年5月1日

 

【書き出し】

昭和八年三月三日の早朝に、東北日本の太平洋岸に津浪が襲来して、沿岸の小都市村落を片端から薙ぎ倒し洗い流し、そうして多数の人命と多額の財物を奪い去った。・・・



「瀬戸内海の潮と潮流」寺田寅彦

寺田寅彦『瀬戸内海の潮と潮流』

初出 「ローマ字少年」1932(大正7)年5月1日

 

【書き出し】

瀬戸内海はその景色の美しいために旅行者の目を喜ばせ、詩人や画家の好い題目になるばかりではありません。また色々な方面の学者の眼から見ても・・・



「蜜柑」 芥川龍之介

芥川龍之介『蜜柑』

初出 1919年『新潮』(大正8年)5月

 

【書き出し】

或曇つた冬の日暮である。私は横須賀発上り二等客車の隅に腰を下して、ぼんやり発車の笛を待つてゐた。とうに電燈のついた客車の中には、珍らしく私の外に一人も乗客はゐなかつた



「野ばら」 小川未明

小川未明『野ばら』

 

【書き出し】

大きな国と、それよりはすこし小さな国とが隣合っていました。当座、その二つの国の間には、なにごとも起こらず平和でありました。



「手袋を買いに」 新美南吉

新美南吉『手袋を買いに』

初出 1943年「牛をつないだ椿の木」収載

 

【書き出し】

寒い冬が北方から、狐の親子の棲んでいる森へもやって来ました。

或朝洞穴から子供の狐が出ようとしましたが、「あっ」と叫んで眼を抑えながら母さん狐のところへころげて来ました。